2026/8/24

260824_Zモニター-「ワニの口理論」のワニはまだいるのか

「ワニの口」はまだ開いてる?

ー税収は過去最高なのに歳出との差は拡大していたー

 

1.導入:あれから3年半。あのワニは今、どこにいるのでしょうか?

「ワニの口」―2023年2月頃、このグラフをよく見かけた記憶はないでしょうか。国の歳出と税収を1本ずつの折れ線グラフで描くと、その差がどんどん開いていく様子が、まるでワニが大きく口を開けているように見える、あの図です。防衛費の財源をどうするかという議論と絡んで、SNSや経済メディアで一気に話題になり、「財務省の危機演出だ」「いや本物の危機だ」と賛否が入り乱れた、いわば全盛期でした。

あれから3年半。私自身、久しぶりにこの言葉を思い出して、ふと気になりました。あのワニは今、どうなっているのでしょうか。2026年に入ってからは「税収は過去最高」「プライマリーバランスが28年ぶりに黒字化」という、なんだか財政が良くなったように聞こえるニュースも目にするようになりました。一方で「国の借金は過去最大」という見出しも相変わらず見かけます。あなたはこの2つのニュース、どちらを財政の実態として受け止めていますか。今回は、あの「ワニの口」が今もそこにいるのか、最新のデータで確かめてみたいと思います。

 

2.歳出と税収の差=ワニの口は、今も開いたままなのか?

この記事で確かめたいのは、「歳出と税収の差=ワニの口は、今も開いたままなのか、それとも閉じてきているのか」という一点です。

まず「ワニの口」とは何かをおさらいしておきましょう。国の一般会計の歳出総額と税収を、それぞれ1本の折れ線グラフで描くと、両者の差(多くは国債=借金で穴埋めされる部分)が年々広がっていく様子が見えます。この開いた差を、ワニが口を開けている姿に例えたのが「ワニの口」です。

2023年当時この言葉が一気に注目されたのは、防衛費増額の財源として「国債60年償還ルール」の見直しが検討されたことがきっかけでした。この見直し論が、「そもそもワニの口グラフは、会計処理の作り方にトリックがあり、危機を誇張しているのではないか」という批判と結びつき、SNS・note・経済メディアで大きな論争を呼んだのです。ただ、この理論には最初から「財政危機の証拠」と見る立場と、「グラフの見せ方の問題にすぎない」と見る立場の両方が存在していて、どちらか一方が最初から正しかったわけではありません。ちなみに60年償還ルールの見直し自体は、その後「新たな財源にはならない」という結論に落ち着いた、という顛末も当時を知らない方には前提として押さえておいていただきたいところです。あなたは「歳出と税収の差」と聞いて、今の日本はどちらの方向に向かっていると感じますか。

 

3.財政のマスコミ報道がどこまで一次資料に基づいているか?

「ワニの口」をめぐる情報を調べていく中で、信頼度の高いものと、そうでないものが混在していることに気づきました。この2つを区別して受け取ることが大事だと感じています。

たとえば「ワニの口の名付け親は元財務事務次官の矢野康治氏」という説が、SNS上で広く語られています。ただ、私が一次資料まで遡って確かめようとしたところ、根拠として示されているのはある投稿の説明文のみで、矢野氏が財務次官に就任したのは2021年である一方、「ワニの口」という表現自体は1990年代後半にはすでに使われていたとする複数の解説があり、時期がかみ合いません。ですので、この説は「名付け親とされている」という伝聞にとどめておくのが誠実な姿勢だと考えています。

一方で、令和7・8年度の歳出総額・税収・国債費といった数値は、財務省や複数の報道機関が公表している一次〜準一次情報で、信頼度は高いと言えます。また2026年1月には、「ワニの口は詐欺グラフである」と題した個人運営のnote記事が拡散しましたが、学術的な裏付けは弱く、参考程度にとどめるのが妥当なソースです。あなたはSNSで見かけた財政の話、その情報がどこまで一次資料に基づいているか、意識したことはあるでしょうか。

 

4.「税収は過去最高」で「借金は拡大」どうなってんの?

最新の予算数値を確認してみると、意外な事実が見えてきました。歳出と税収の額面の差は、2025年度から2026年度にかけて、むしろ拡大しているのです。

令和8年度(2026年度)予算政府案では、歳出総額122.3兆円(過去最大・2年連続)、税収83.7兆円(7年連続で過去最高)と、どちらも過去最高を更新しています。しかし両者の差を計算すると、令和7年度の約37.4兆円から、令和8年度は約38.6兆円へと広がっています。つまり単純な「歳出総額 vs 税収」というグラフで見る限り、ワニの口はまだ完全には閉じていないことになります。国債費も31.28兆円と、初めて30兆円を突破し、6年連続で過去最大を更新中です。金利のある世界への移行で、この利払い負担がさらに増えるリスクも指摘されています。

一方で、これとは正反対に見えるニュースもあります。一般会計のプライマリーバランス(PB)は2026年度に1.3兆円の黒字となる見込みで、1998年度以来28年ぶりの黒字化と報じられています。ただし、このPB黒字は「国のみ・一般会計のみ・当初予算ベース」という限定的な条件でのものです。国と地方を合算したより広いベースで見ると、2026年度もなお赤字が見込まれるという専門家の試算もあります。「税収は過去最高」というニュースと「借金の差は拡大」というニュース、両方を耳にしたとき、あなたはどちらを財政の実態として受け止めますか。

 

5.ワニが行方不明?

こうした数字を専門家がどう見ているかというと、実は2026年に入っても、意見はまだ拮抗したままです。

原田泰氏(元日銀審議委員)や会田卓司氏らエコノミストは、グラフの会計処理の非対称性を指摘し、「ワニの口は誇張された演出だ」という主張を継続的に発信しています。一方で財務省は、歳出と税収の乖離を示す資料を今も毎年公表しており、財政制度等審議会も含め、財政の危機的な状況を訴える立場は変わっていないとみられます。どちらか一方が完全に論破された、という状況にはなっていないのです。

興味深いのは、SNS上での関心の向き方が2023年当時と少し変わってきていることです。「ワニの口」という言葉そのものについての祭りのような盛り上がりは、今はあまり見られません。その代わりに目立つのは、「税収は84兆円超えで過去最高なのに、なぜ減税されないのか」「国民に還元されていない」という、もっと生活実感に近い不満です。「ワニの口が開いているか閉じているか」という専門家的な論点と、私たちの生活実感は、少しズレてきているのかもしれません。あなた自身は、「税収は過去最高」というニュースを聞いたとき、生活が楽になった実感はあるでしょうか。

 

6.一つの成功例をそのまま信じるのではなく自分の頭で確認する癖をつけておく

結論から言うと、「ワニがいる/いない」のどちらか一方に決めつけるのではなく、同じ財政データでも切り取り方によって結論が変わることを踏まえた上で、自分なりの判断軸を持っておくことが、今の私たちにできる現実的な向き合い方になるのではないかと感じています。

具体的には、まず確認先を知っておくと安心です。財務省のサイトには「一般会計税収、歳出総額及び公債発行額の推移」という資料が毎年更新されており、あの「ワニの口」グラフの元データが誰でも無料で見られる状態になっています。また、財政制度等審議会が公表している建議資料にも、財政の状況を示す資料が例年掲載され続けています。「難しそうだから見なくていい」と諦めてしまう前に、AIに資料のURLを渡して「専門用語を使わずに要点だけ教えて」と頼んでみると、自分のペースで中身を確認できる可能性があります。

情報を受け取るときは、「①客観的な事実(歳出総額122.3兆円、税収83.7兆円といった公表数値そのもの)」「②専門家の間でまだ決着していない係争中の論点(ワニの口批判が妥当かどうか、国と地方を合わせたSNAベースで見るべきかどうか)」「③感情的な受け止め方(『詐欺グラフだ』『財務省が演出している』といった評価的な言い回し)」の3層に分けて捉える視点を持つと、SNSの断定的な投稿に振り回されにくくなると私は考えています。

「28年ぶりのプライマリーバランス黒字化」というニュースも、この視点で見ると印象が変わるかもしれません。これは国のみ・一般会計のみ・当初予算ベースという限定された条件での黒字であり、国と地方を合わせたより広い指標で見ると、2026年度もなお赤字が見込まれるという専門家の試算があります。「黒字化した」という見出しだけを鵜呑みにせず、どの範囲を切り取った数字なのかを一呼吸置いて確認する。この姿勢は、実はAI副業に関する情報収集にも応用できる考え方かもしれません。一つの成功例や「必ず稼げる」といった断定的な儲け話をそのまま信じるのではなく、どんな条件下での話なのかを自分の頭で確認する癖をつけておくと、遠回りを避けられる可能性があります。

もし次に「国の借金が過去最大」というニュースを見かけたら、あなたはどの指標(歳出総額なのか、プライマリーバランスなのか)で財政の実態を判断してみますか。

 

7.まとめ:「ワニの口」は変幻自在

結論として、「ワニの口」は2023年当時のまま開き続けているわけでも、完全に姿を消したわけでもなく、どの指標で見るかによって表情を変える存在として、今も財政論議の中に生き続けているというのが、今回一次情報を確認して見えてきたことです。

改めて要点を振り返ると、令和8年度(2026年度)予算政府案(※成立後の確定値とは異なる可能性がある段階の数字です)では、歳出総額122.3兆円・税収83.7兆円とどちらも過去最高を更新しながら、その差はむしろ37.4兆円から38.6兆円へと拡大しています。単純な歳出と税収のグラフで見る限り、ワニの口はまだ完全には閉じていません。一方で、一般会計のプライマリーバランスは1998年度以来28年ぶりに黒字化する見込みとなっており、こちらだけを見れば財政は改善しているようにも映ります。専門家の間でも「ワニの口は誇張された演出だ」という批判と、「財政の危機は依然続いている」という擁護論が、2026年に入っても拮抗し続けています。

私はこの記事で、「ワニはもういない」「まだいる」のどちらか一方に断定するつもりはありません。それよりも、同じ財政ニュースに触れたときに、その数字がどの指標に基づくものなのかを自分なりに確認する視点を、あなたに持ち帰ってもらえたらと思っています。

あなたは今、「ワニの口」はまだいると感じますか、それとも少しずつ姿を消しつつあると感じますか。次に財政のニュースを目にしたときに、ふと思い出してもらえたら嬉しいです。

8.関連記事へのリンク

「数字の切り取り方で結論が変わる」という今回の視点をさらに深めたい方には、過去に書いた次の3本もあわせて読んでみてほしいと思います。

1)PB黒字化で嘘が露呈! ―増税を盲信する財務省の不都合な真実と日本の未来

今回の記事でも触れた「28年ぶりプライマリーバランス黒字化」というニュースの裏側を、さらに掘り下げて解説した記事です。同じ数字でも見方が変わることを、あわせて確認してみてください。

2)「財源がない」は嘘だった? ―なぜ今、攻めの財政が必要なのか?現場の視点で徹底解説

「国の借金が大変だ」という不安の裏側にある、政府の財政と私たちの家計簿は仕組みが違うという論点を扱っています。ワニの口の議論と一緒に読むと理解が深まると思います。

3)可処分所得を奪われるな! ―財務省の数字を疑う自立型インテリジェンスの磨き方

税収の見積もりに使われる数字にも、一次データと照らし合わせると見えてくるギャップがあります。今回の「ワニの口」と同じく、数字を鵜呑みにしない視点を練習したい方向けの記事です。

以上です。